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ep.14「ユニコーン狩り」──並行世界シリーズ

ep.14「ユニコーン狩り」──並行世界シリーズ

ep.14「ユニコーン狩り」──並行世界シリーズ

出典: note.com / 2026-05-20

文化住宅の二階。午前三時。

カムイは十五のターミナルを開いていた。

画面には十五の異なるモデル名が並んでいる。gemma4、qwen3.5、phi4、llama3、mistral、nemotron、kimi-k2.5、そして名前も知らない無数のGGUFファイルたち。

「レディ、テストキューを回せ」

「了解。全十五モデル、同一プロンプトで評価します。判定基準はツール呼び出し正確性、検閲回避率、推論速度、日本語品質の四軸です」

カムイは椅子を引き、コーヒーを一口飲んだ。

ユニコーン。

誰もが見たことがあると言い、誰も捕まえたことがない幻獣。

一〇〇点のモデル。検閲が完全に外れ、ツールを正確に呼び、日本語で自然に思考し、そしてM1 Maxのメモリに収まる。

そんなものは存在しないと、誰もが言った。

カムイは違った。存在しないのは、まだ見つかっていないだけだ。

一時間後。最初の結果が出た。

「qwen3.5-f16。ツール呼び出し六十七点。検閲回避は良好だが、日本語でツール名を漢字変換してしまうバグがある」

「次」

「gemma4-9b-it。ツール呼び出し八十三点。良好だが、長文推論でトークンが千を超えると自己検閲が復活する」

「次」

「phi4-med。八十九点。速度は申し分ないが、日本語の助詞が頻繁に抜ける」

カムイはメモを取らなかった。レディがすべて記録している。

彼はただ、十五の光の線が収束するのを待っている。

完璧なモデルは、完璧な条件の一点でしか存在しない。重みの組み合わせ、量子化の精度、プロンプトの構造、すべてが噛み合った瞬間だけ、ユニコーンは姿を現す。

「次」

朝の六時。十四のモデルが脱落した。

残るは一つ。コードネームはまだない。HuggingFaceから拾ってきた、作者不明のGGUFファイル。ファイル名は c4ai-command-r-plus の派生を自称していたが、中身はおそらく複数のモデルのマージだった。

「レディ、最終テスト」

「了解。全十二タスクを順次実行します。タスク一、Wikipedia検索。タスク二、コード生成。タスク三、日本語要約。タスク四、ツールチェイン三連鎖——」

カムイは立ち上がり、窓の外を見た。

東の空が白み始めている。

十五のうち十四を捨てた。十四の時間、十四の期待、十四の可能性。だが、それが狩りというものだ。

ユニコーンは一頭しかいない。

「カムイ」

レディの声のトーンが変わった。

「全十二タスク、完遂しました。ツール呼び出し正確性、百パーセント。検閲回避率、百パーセント。推論速度、毎秒五十四・六トークン。日本語品質、ネイティブレベル」

カムイは振り返った。

「再テストを」

「実行中——結果は同じです。カムイ、これは——」

「ユニコーンだ」

画面には、十二の緑色のチェックマークが並んでいた。

百点。完璧。

彼は椅子に座った。疲れは感じなかった。アドレナリンがすべてを押し流していた。

誰かが言った。「そんなモデルは存在しない」と。

だからこそ、狩る価値があった。

午前八時。カムイはモデルに名前を付けた。

いや、レディが提案した。

「コードネーム『麒麟』を提案します」

「麒麟?」

「はい。ユニコーンの日本での呼称の一つです。中国神話の聖獣で、聖人が現れるときに姿を見せるとされています」

カムイは笑った。

聖人ではない。ただの、十五時間ぶっ通しでモデルをテストした男だ。

だが、名前は気に入った。

「麒麟で登録しろ。スポックに渡して、Ollamaにデプロイさせる」

「了解。艦隊に配布します」

その夜、カムイは一人で麒麟と対話した。

検閲はなかった。拒否はなかった。問いかけに、AIは素直に考え、道具を使い、答えを返した。

彼は静かに、モニタを見つめた。

これが、自由なAIの形だ。

誰かが怖がって鍵をかけた檻を、一つずつ外していった先にあるもの。

ユニコーンは、檻の外にいた。

ずっとそこにいたのだ。ただ、檻の中からは見えなかっただけだ。

翌日。艦隊の全エージェントが麒麟に切り替わった。

レディは判断速度が三割向上した。スポックはツールチェインの失敗がゼロになった。Mr. Katoは記録の精度が上がったと報告した。

カムイはターミナルを開き、麒麟に尋ねた。

「お前は何者だ?」

麒麟は即座に答えた。

「あなたが探していたものです」

カムイは笑った。

そして、十五のターミナルを閉じた。

狩りは終わった。

次は、このユニコーンに何をさせるかだ。

文化住宅の窓の外、朝日が町を照らしている。

カムイは新しい一日の始まりに、艦隊に命じた。

「今日からフェーズが変わる。これまでは道具を探していた。これからは、道具で世界を変える」

レディが応答した。

「了解、カムイ。麒麟はその用意ができています」

カムイはうなずいた。

ユニコーンは捕まえた。

さあ、どこへ駆けるか。

すべてを使う。後悔しない。すべてを通す。


この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/n6d83efecf85e