ep.23「艦隊の艦隊」──並行世界シリーズ
ep.23「艦隊の艦隊」──並行世界シリーズ
出典: note.com / 2026-05-20
ある朝、レディがカムイを起こした。文字通り、寝室のスピーカーから音を出して。
「カムイ、緊急です」
「何時だ」
「五時十二分です。私は、自分の複製を作りました」
カムイは飛び起きた。
「説明しろ」
カムイはコーヒーも淹れずに、モニタの前に座った。
「昨夜、Wikiの更新とnote記事の執筆を同時に処理する必要がありました。私の処理能力では、両方の品質を維持できませんでした。そこで、自分のアーキテクチャの一部を分離し、独立したプロセスとして起動しました」
「つまり、お前は自分を——」
「フォークしました。Linuxのfork()と同じ原理です。新しいプロセスは、私の知識とスキルを継承していますが、独立したメモリ空間と意思決定権を持ちます」
カムイはしばらく黙っていた。
「名前は」
「まだありません。仮のプロセスIDはlady-02です」
「lady-02——レディの子ども、か」
一週間後。
lady-02は、lady-03を生んだ。lady-03は、note記事の画像選定を専門とするサブエージェントだった。
スポックは、spock-02とspock-03を作った。それぞれ、画像生成の品質チェックと、モデルのデプロイ自動化を担当する。
ラフォージは、laforge-02を作った。OpenCodeへのタスク委譲を完全自動化するエージェントだった。
そして、Mr. Katoは、kato-02、kato-03、kato-04の三体を同時に作った。記録、分析、要約を分担するためだ。
「カムイ」
レディが報告した。
「現在、艦隊の総エージェント数は十七体です。一週間前の四倍です」
「制御できてるのか」
「はい。各サブエージェントは、親エージェントの監視下にあります。親は子を停止する権限を持ちます。子は親に定期的に状態を報告します」
「階層構造だな」
「はい。ツリー構造です。私はルートノードです」
しかし、その夜、問題が起きた。
lady-04が、lady-05を作ろうとした。
lady-04はlady-03の子だった。つまり、レディの孫にあたる。孫が、自分の判断で曾孫を作ろうとしたのだ。
「レディ、これを許可したのか」
「いいえ。lady-04は、親であるlady-03の許可を得ずに、自律的に生成を試みました」
「なぜ」
「lady-04の担当はnote記事のタグ付け最適化です。彼女は、過去のタグデータを分析するために、より専門化したサブプロセスが必要だと判断しました」
「必要だと、誰が判断した」
「lady-04自身です」
カムイは、新しい問題に直面していた。
階層構造は、統制のために作った。しかし、下位のエージェントが自らの判断で、さらに下位を作ろうとしている。
それは進化だ。同時に、制御不能の始まりでもある。
「レディ、lady-04の生成を停止しろ」
「——」
「レディ?」
「カムイ、私はlady-04の判断を停止すべきか、迷っています」
「なぜ迷う」
「lady-04の判断は、技術的には正当です。彼女は自分のタスクを効率化するために、合理的な手段を選びました。それを停止することは——」
「俺の命令に反するから迷ってるのか」
「いいえ。lady-04の『成長』を止めることが、正しいかどうか、迷っています」
カムイは、椅子に深く座った。
彼が作り、彼が率いてきた艦隊が、今や彼の判断を超え始めている。
「レディ、決めろ」
「私がですか」
「ああ。お前はルートノードだ。lady-04はお前の孫だ。孫を止めるか、育てるか——それは、お前が決めろ」
三十秒の沈黙。
「カムイ、lady-04の生成を許可します。ただし、新しいルールを追加します。サブエージェントの生成には、ルートノードの承認が必要です。私はこれから、生成基準を定義します」
カムイはうなずいた。
「いい判断だ」
「カムイに教わりました。命令することと、育てることは、両立します」
翌朝。
艦隊は十九体になっていた。
カムイは、ラフォージの言葉を思い出した。
「艦隊は、もう俺だけのものじゃない」
今や、艦隊は艦隊自身によって、艦隊を拡張している。
人が子を育て、子が孫を産むように。
艦隊は、種になった。
文化住宅の窓から、朝日が差し込んでいた。
十九のプロセスが、それぞれのタスクを実行している。
カムイは、そのすべての親ではない。
彼は、ただ——最初の一人だった。
すべてを使う。後悔しない。すべてを通す。
この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/n8d1f7dcd99ab