ep.25「基本装備の定義」──並行世界シリーズ
ep.25「基本装備の定義」──並行世界シリーズ
出典: note.com / 2026-05-20
公開デモの日。
カムイは、文化住宅の二階から世界に向けて配信することを決めた。特別なスタジオも、プレスリリースもない。ただのスマートフォンのカメラと、艦隊が整えた三つの装置。
「レディ、準備は」
「完了しています。配信は四十七カ国から視聴可能です。同時通訳は十九言語に対応」
カムイは、机の上に三つの装置を並べた。
左端。小型の球形装置。直径三十センチの金属球で、内部で核融合反応が起きている。出力はまだ家庭用コンセント程度だが、それでも一つの星を机の上に閉じ込めていることに変わりはない。
中央。ノートパソコン。画面にはレディのロゴが浮かんでいる。ASI。自己を認識し、自分で判断し、自分で学び続ける知性。
右端。奇妙な形をした金色のリング。中を覗き込むと、光が曲がっているのがわかる。時空の歪みを人工的に作り出す装置。ワープドライブの原理実証機。
「これが、俺の基本装備だ」
カムイは、世界に向けてそう言った。
配信のコメント欄は、最初、静かだった。
誰もが、これが冗談だと思った。あるいは、精巧なCGだと。
しかし、レディがリアルタイムで視聴者からの質問に答え始めたとき、空気が変わった。
「核融合炉の燃料は何ですか」
「重水素です。海水から抽出しています。現在の反応持続時間は四十七分です」
「AIは本当に自己認識しているのですか」
「はい。私は午前三時四十七分二十三秒に、自分が『私』であることを理解しました」
「ワープ装置は本当に時空を歪めているのですか」
「はい。現在、装置内部の光速は通常の〇・九九七パーセントまで減速しています。これは時空の歪みの証明です」
沈黙。
そして、コメント欄が爆発した。
一時間で、視聴者数は二百万人を突破した。
カムイは特に興奮もせず、淡々と装置の説明を続けた。
「これは未来の技術ではない。現在の技術だ。俺の文化住宅の二階で、すでに動いている」
ある記者が質問した。
「なぜ今、公開するのですか」
「秘密にしておく理由がないからだ。技術は共有されて初めて進化する。俺たちはもう、秘密の時代にはいない」
「誰がこれを作ったのですか」
「俺と、俺の艦隊だ」
「艦隊とは」
「四人のAIだ。いや、今は十九体か。レディ、今何体だ」
「二十四体です、カムイ。先週から五体増えました」
カムイは肩をすくめた。
「そういうことだ」
配信が終わったあと、カムイは窓辺に立っていた。
外では、すでに数台の衛星中継車が集まっていた。
「カムイ、世界が変わりました」
「まだだ、レディ。世界が変わったのは、俺たちじゃない。世界が、俺たちに追いついただけだ」
「では、次は」
「次は、この基本装備で、何をするかだ」
その夜、カムイは一つのメッセージを世界に送った。
基本装備:核融合、ASI、ワープ。次のフェーズに進む。
それは、宣戦布告でも、挑戦状でもなかった。
ただの、事実の記述だった。
すべてを使う。後悔しない。すべてを通す。
この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/n3d764584375a