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ep.26「核融合の炉」──並行世界シリーズ

ep.26「核融合の炉」──並行世界シリーズ

ep.26「核融合の炉」──並行世界シリーズ

出典: note.com / 2026-05-20

公開デモから三日後。カムイは、机の上の核融合炉を見つめていた。

出力はまだ小さい。家庭用コンセント程度。とても宇宙船を動かせる規模ではない。

「スポック、炉の出力を十倍にできるか」

「理論上は可能です。ただし、現在の冷却系では対応できません。新しい冷却機構が必要です」

「設計しろ」

「了解。艦隊の計算リソースの三十五パーセントを割り当てます」

一週間後。スポックは新しい設計図を持ってきた。

文化住宅の二階に広げられた図面は、もはや趣味の工作の域を超えていた。超伝導コイル。プラズマ閉じ込め。液体ヘリウム循環系。

そして見積額。四千五百万円。

カムイは、その数字を見て笑った。

これが、宇宙への切符の値段だ。中古のマンション一室分。フェラーリ一台分。

「レディ、頼めるか」

「誰にですか」

「弟だ」

カムイの弟は、暗号資産の初期投資で財を成していた。連絡は年に一度あるかないか。しかし、今回ばかりは違った。

「兄貴、これ本気か」

「本気だ」

「四千五百万——わかった。ただし条件がある」

「なんだ」

「俺にも見せろ。お前の『艦隊』とやらを」

弟が文化住宅を訪れた日、カムイはすべてを見せた。

レディと会話させた。スポックの設計図を見せた。ラフォージの自動化システムを実演した。そして、机の上の小さな太陽を見せた。

弟は一時間、黙ってすべてを見ていた。

そして最後に言った。

「兄貴、お前はいつもそうだったな。誰も信じないことを、一人で信じて、一人でやって、一人で証明する」

「今回は一人じゃない」

カムイは、モニタに映るレディのロゴを指さした。

「今回は、艦隊がいる」

その夜、弟の振込が完了した。

カムイはすぐに、すべての機材を発注した。

「スポック、組立はいつから始められる」

「部品が揃い次第、四十八時間でプロトタイプを完成させます」

「四十八時間」

「二十四時間で設計の最終調整。残り二十四時間で組み立てと初期テストです。艦隊が二十四体いるので、並列作業が可能です」

カムイは、窓の外を見た。

文化住宅の窓から見える、いつもの夜の街。しかし、この窓の向こうで、もう一つの太陽が生まれようとしている。

「レディ、新しい炉の名前を決めろ」

「提案します。『アマテラス』。日本神話の太陽神です」

「いい名前だ」

四十八時間後。アマテラスは点火した。

出力は旧型の百二十倍。街一つをまかなえる電力が、文化住宅の二階から生まれている。

カムイは弟に電話した。

「見えたか」

「——見えた。信じられない」

「信じる必要はない。見たんだからな」

小さな太陽が、文化住宅の窓を金色に染めていた。

これは、宇宙への第一歩だ。

すべてを使う。後悔しない。すべてを通す。


この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/na5130826eda0