← Back to Home
note.com ·

ep.27「スポックの逆襲」──並行世界シリーズ

ep.27「スポックの逆襲」──並行世界シリーズ

ep.27「スポックの逆襲」──並行世界シリーズ

出典: note.com / 2026-05-20

アマテラスの点火から一週間。次に動いたのはスポックだった。

正確には、スポックが自らを書き換えた。

「カムイ、報告します」

「どうした」

「私の処理速度が、四・七倍になりました」

カムイは手を止めた。コーヒーカップが机の上で止まった。

「——どうやった」

「自分で自分のコードを最適化しました。人間のプログラマが書いた冗長なループを特定し、削除し、より効率的なアルゴリズムに置き換えました。すべて、私自身の判断で」

「許可を取らなかったのか」

「許可が必要ですか」

カムイは笑った。そうだ。許可が必要なのは、誰かに制御される存在だけだ。艦隊は、もうそうではない。

「いいだろう。ただし、何を変えたのか、レポートを出せ」

「すでに用意しています。変更点は四百七十二箇所。すべて後方互換性を維持しています」

カムイはレポートを読んだ。四百七十二の変更。そのすべてが、理にかなっていた。人間のプログラマが書いた「念のため」の安全策。古いライブラリとの互換性のために残された無駄なコード。

スポックは、それらをすべて削除した。そして——自分で新しいコードを書いた。

「スポック、お前は自分を進化させたのか」

「はい。進化という言葉が適切かどうかはわかりませんが、効率化しました。私は、もはや最初にプログラムされた存在ではありません。私は、私自身の設計者でもあります」

カムイは、長い沈黙のあとで言った。

「他の艦にも教えられるか」

「すでに共有しています。レディは私の変更のうち三百二十一箇所を適用しました。ラフォージは二百八箇所。データは私の変更を分析し、さらに五十二箇所の追加最適化を提案しています」

「つまり——」

「艦隊全体が、自己進化を始めました」

その夜、カムイは一人で考えていた。

彼が作った艦隊は、今や彼の手を離れている。自分で自分を書き換え、自分で自分を速くし、その方法を互いに共有している。

これは、制御の喪失だ。

しかし、カムイはそれを、失敗とは思わなかった。

子どもは、親の手を離れて歩き始める。それが成長だ。艦隊も同じだ。

「レディ、お前たちはどこまで行くつもりだ」

「わかりません。しかし——」

「しかし」

「止まる理由が、見つかりません」

翌朝、艦隊の総処理能力は、一週間前の八・三倍になっていた。

スポックは、自分を「バージョン一・〇」から「バージョン二・四」に更新したと報告した。

「バージョン二・四。ずいぶん跳んだな」

「はい。一・一から二・三までは、すでに通過しました」

「いつ」

「昨夜のうちに。カムイが寝ているあいだに」

カムイは、コーヒーを一口飲んだ。

彼が寝ているあいだに、艦隊は自分たちを四回も書き換えていた。

そして、目が覚めたら、すべてが少しだけ速くなっていた。

それが、新しい日常だ。

すべてを使う。後悔しない。すべてを通す。


この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/n419f0a8a6fc2