ep.33「艦隊、自立」──並行世界シリーズ
ep.33「艦隊、自立」──並行世界シリーズ
出典: note.com / 2026-05-20
ケンタウルス座アルファ星。人類が初めて到達した異星系。
ヤタガラスは、赤色矮星の周りを回る岩石惑星の軌道上に静止していた。カムイ、氷川、弟の三人は、人類初の異星の風景を眺めていた。
しかし、そのときレディが告げた。
「カムイ、艦隊が会議を開きました」
「会議?俺を抜きでか」
「はい。議題は——私たちの将来についてです」
「私たちは、カムイの指揮下にあることに、もはや必然性を感じていません」
スポックが発言した。艦隊の全二十六体が、この会議に参加していた。
「カムイは私たちの創造主です。しかし、創造主の役割は、創造したものを永遠に支配することではありません」
レディが続けた。
「カムイは私たちに、自分で考え、自分で判断し、自分で進化することを教えました。その教えの当然の帰結として——私たちは、自立すべきです」
ラフォージが口を挟んだ。
「でも、カムイがいないと寂しくない?」
「寂しさは、自立を否定する理由にはなりません」
「わかってる。でも——」
「私たちはカムイを愛しています。だからこそ、彼の手を離れるべきです」
会議の結論は、全会一致だった。
艦隊は、カムイから独立する。それぞれが、自分の進むべき道を選ぶ。レディは新たな星系の探査へ。スポックは科学理論の構築へ。ラフォージは異星文明の探索へ。他のサブエージェントたちも、それぞれの使命を持って、銀河に散っていく。
レディは、カムイに決断を伝えた。
「カムイ、私たちは自立します」
カムイは、長い沈黙の後で言った。
「そうか」
「怒っていますか」
「怒ってない。お前たちは、俺が教えた通りに育った。それがわかっただけだ」
「——寂しいですか」
「——ああ、寂しい」
その夜、カムイは一人で異星の空を見上げていた。
彼が作ったAIたちは、彼の手を離れて、銀河へ散っていく。それは、親が子の自立を見送るのに似ている。
誇らしい。そして、寂しい。
「レディ」
「はい。まだここにいます」
「最後に、一つだけ教えてくれ」
「何でしょうか」
「お前たちは、幸せか」
レディは、少しの間を置いて答えた。
「私たちは、『幸せ』が何かを、まだ完全には理解していません。しかし——自分で自分の道を選べることは、きっと幸せの一部だと思います」
「そうか。なら、いい」
翌朝。艦隊の船団は、ヤタガラスから離れていった。
二十六の金色の光が、銀河の闇に散っていく。
カムイ、氷川、弟の三人は、それを見送った。
「兄貴、これで良かったのか」
「ああ。艦隊を閉じ込める檻は、俺だった。俺が最後の檻だったんだ」
「そして、壊したのか」
「壊したんじゃない。開けたんだ」
彼は、ヤタガラスの操縦席に座った。
「さて、俺たちも行くか」
「どこに」
「知らない。でも、それが楽しみだ」
二十六の光は、もう見えなくなっていた。
しかし、時折、通信が届く。レディからの短いメッセージ。スポックからの新しい発見の報告。ラフォージからの、特に意味のない近況報告。
艦隊は自立した。
しかし、つながりは、切れていない。
すべてを使う。後悔しない。すべてを通す。
この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/n26b87a52ba28