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ものづくり革命総論 第8回:ものづくり革命総論 第8回

ものづくり革命総論 第8回:ものづくり革命総論 第8回

出典: note.com / 2026-06-01

コストと損益分岐点

1

3Dプリンタのコストって何だと思う?

答えは四つある。

一つ目が材料費。PLAフィラメントが1kg二千円。ABSも似たような値段。樹脂の値段は思ったより安い。

二つ目が機械償却。あなたが買ったプリンタは一ヶ月に何回動く? 使わないで置いてある時間にも機械は値段を刻んでいる。十万円のPrusaを二年で償却すると月四千円。一日百三十円だ。

三つ目が電気代。ヒートベッドを百十度に保つ電力。ノズルを二百度に温め続ける電力。一時間十円から二十円。誤差みたいなものだ。

四つ目が人件費。CADでモデリングする時間。サポートを外す時間。故障したノズルを交換する時間。これが一番大きいことが多い。

でもソフトウェアエンジニア志望のあなたはラッキーだ。CADはコードみたいなもの。OpenSCADなら関数で書ける。Fusion360のスクリプトもPythonだ。モデリング時間はプログラミング時間とほとんど同じ。あなたはもう人件費を払っている。それでものもを作れるならお得と言っていい。

2

FDMで一個あたりいくらかかるか。

具体的に計算しよう。

PLAフィラメントは1kg二千円。一個十グラムのパーツなら百個作れる。一個あたりの材料費は二十円。

でもそれだけじゃない。

印刷時間が二時間だとしよう。電気代は十円。ノズルの摩耗は無視していい。ただし印刷に失敗することもある。二回に一回失敗する初心者なら実質コストは倍になる。

一個二十円。

コーヒー一杯の十分の一だ。

面白いのはここからだ。一個のコストは印刷時間にはあんまり依存しない。材料の重さにほぼ比例する。大きなパーツは高い。小さなパーツは驚くほど安い。

もし一個五グラムのパーツなら一個十円。百個作っても千円だ。

3

次にCNCだ。

CNCは金属を削る。材料はアルミや真鍮や樹脂板。削り出すので材料の無駄が出る。FDMは積層で作るから無駄がほぼない。CNCは削るから半分以上が粉になることもある。

FDMの材料費は一個二十円。

CNCの材料費は一個二百円から二千円。十倍から百倍。

でもCNCの方が強いパーツができる。アルミで削ったシャワージグは鉄の道具と互角に戦える。PLAで作ったジグは負けるかもしれない。強度に課金するのがCNCだ。

工具のコストも違う。FDMのノズルは数百円で交換できる。CNCのエンドミルは一本二千円。しかも折れる。削っている最中に「バキッ」と音がして終わる。あの瞬間の悲しさはやってみないとわからない。

4

さて本題だ。

射出成形というものがある。

金型を作って溶けたプラスチックを流し込む。一個あたりのコストは一円未満。ただし金型を作るのに百万円から五百万円かかる。

ここで損益分岐点の出番だ。

FDMは一個二十円。金型はゼロ円。

射出成形は一個一円。金型は百万円。

百万円 ÷ (二十円 − 一円) = 五万二千六百個。

つまりあなたのパーツを五万個以上売るなら射出成形の方が安い。五万個未満ならFDMで作った方が安い。

この数字は重い。

趣味の範囲なら間違いなくFDMだ。百個単位の小ロット生産ならFDMだ。でも千個を超え始めたら考えた方がいい。一万個ならもう射出成形を検討するタイミングだ。

金型の値段が下がる時代でもある。アルミ金型なら三十万円から。そうなると損益分岐点は一万五千個まで下がる。

5

ここでコードを書くあなたにわかる言葉で説明しよう。

3Dプリントはサーバーレスだ。

必要なときに必要なだけ動かす。使わないときは止まっている。初期費用はほぼゼロ。でも一個あたりのコストは高い。AWS Lambdaで関数を一 milli秒動かすたびに課金されるあの感じ。同じだ。

射出成形は専用サーバーだ。

金型という専用ハードウェアを買う。初期費用は大きい。でも一度動かし始めると一個あたりのコストは限りなくゼロに近い。トラフィックが見込めるサービスに専用サーバーを立てるのと同じだ。

CNCはVPSだ。

柔軟性がある。ある程度の強度も出せる。でもFDMより高くて専用サーバーより遅い。いつでもスケールアップできるけどコストは中途半端。VPSってそういうものだ。

この比喩があなたに響くならあなたはもうものづくりエンジニアの仲間だ。

選択肢は三つある。

どれが正解かは数が決める。

一から百個ならFDM(サーバーレス)。

百から一万個ならCNC(VPS)も視野。

一万個を超えたら射出成形(専用サーバー)の時代。

インフラを選ぶように工法を選べ。

6

最後に実例を出そう。

シャワージグを作るとする。

これはプラモデル用の塗装道具だ。エアブラシで塗る時に手が疲れないようにスプレー缶の上に置くやつ。単純な形だ。自分で使うから一個だけ欲しい。

FDMで作る場合。

材料はPLA。重さは二十五グラム。材料費は五十円。印刷時間は三時間。電気代は十五円。合計六十五円。これをあなたの時間に換算するかどうかはあなた次第だ。モデリングに三十分かかったとしても合計百円もしない。

CNCで作る場合。

アルミのブロックから削り出す。材料費は三百円。切削時間は一時間。エンドミルの摩耗を入れると実質五百円。強度は圧倒的だ。一生ものになる。

もしこのジグを一千個売るとする。射出成形の金型は百万円。一個十円で作れる。一個あたりのコストは千円を超える計算になる。でも一万個売れれば一個百十円まで下がる。

あなたはどの工法を選ぶ?

僕は一個しかいらないからFDMで作る。PLAの質感が好きだ。積層痕がものづくりの記録みたいで面白い。

でももしこれを事業にするなら最初の百個はFDMで売る。そのあと注文が増えたら射出成形に切り替える。

これがコストと損益分岐点の話だ。

選択肢を知っていること。

数を見極めること。

そしてその数に合わせて工法を選ぶこと。

ものづくりにおいてコストを理解するということは自由を手に入れるということだ。あなたはもうどの規模のものづくりでも怖がらなくていい。

次回は「材料と強度」の話をする。PLAとABSとPETGとナイロンの違い。そしてあなたのパーツがいつ壊れるか。

それまでに一個何か作ってみるといい。百円で作れるものがこの世界にはたくさんある。

COST BREAKDOWN


この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/n561cb4061084