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【サイファーキャット外伝】猫が見た宮崎駿 ―広い意味でのサイファーパンカー説―

【サイファーキャット外伝】猫が見た宮崎駿 ―広い意味でのサイファーパンカー説―

【サイファーキャット外伝】猫が見た宮崎駿 ―広い意味でのサイファーパンカー説―

出典: note.com / 2026-01-20

「そうか…そうだったのか…!」

主人の声が震えている。吾輩は窓際で前足を舐めながら、薄目を開けて主人を観察する。またいつもの発作である。主人はこの発作を「ひらめき」と称しているが、吾輩から見ればただの興奮状態に過ぎない。

「サイファーパンクっていうのはな…」

主人が誰もいない部屋で語り始めた。吾輩に話しかけているつもりらしい。人間というものは実に不思議な生き物である。猫に向かって思想を語る。猫が理解すると本気で思っているのだろうか。まあ、吾輩は理解しているのだが、それは別問題である。

「暗号技術を使って権力から自由を守る運動なんだよ。1990年代、ティム・メイやエリック・ヒューズたちが始めた…でもな、でもな!」

主人の興奮度が上がってきた。吾輩は欠伸をする。人間の興奮に付き合うほど吾輩は暇ではない。

「これって本質的には『検閲を回避して真実を伝える技術』じゃないか? cryptography…暗号、隠すこと、秘匿すること。権力が見せたくないものを、見せる技術…」

主人が立ち上がって部屋の中を歩き回る。吾輩の尻尾を踏みそうになる。危ない。人間というものは自分の思考に没頭すると周囲が見えなくなる。実に危険な生物である。

「じゃあさ、宮崎駿は? あの人がやってきたことって何だ?」

知らんがな、と吾輩は思う。宮崎駿が何者かは知っている。猫の漫画を描いていることは知っている。。。しかし主人は止まらない。

「『もののけ姫』を見ろよ。あれ、子供向けのファンタジーに見えるだろ? でも実際は、自然破壊、差別、戦争、近代化の暴力…全部入ってる。でも、直接的には言わない。物語という『暗号』で包んでる」

主人がまたパソコンに向かう。キーボードを叩く音が部屋に響く。カタカタカタ。実に騒々しい。吾輩の昼寝の邪魔である。

「『風の谷のナウシカ』もそうだ。核戦争後の世界、腐海、巨神兵…全部メタファーなんだよ。子供にはファンタジー、大人には警告。これ、二重暗号じゃないか?」

ふーん、と吾輩は思う。確かに主人が言いたいことは何となく分かる。人間の言語というものは実に回りくどい。猫なら鳴き声一つで全てを伝えられるのに、人間は文章やら映像やらを使って遠回しに伝える。非効率的である。しかし、それが人間の文化というものなのだろう。

「サイファーパンクが数学的暗号で検閲を回避するなら、宮崎駿は物語という暗号で検閲を回避した。1980年代の日本で、子供向けアニメでイデオロギーを叫ぶ? 無理だ。でも、ファンタジーに包めば通る」

主人の目が輝いている。人間が何かを「発見した」と思い込んだ時の目である。吾輩は何度もこの目を見てきた。大抵の場合、翌朝には「やっぱり違うかも…」と言い出すのだが。

「つまり…宮崎駿は広い意味でのサイファーパンカーだったんだよ! crypt…隠す。彼は真実を『物語』という暗号技術で隠し、次世代に伝えた。RSA暗号の代わりに、メタファーを使ったんだ」

主人が振り返って吾輩を見る。吾輩と目が合う。主人は吾輩が理解していると思っているようだ。まあ、実際理解はしているのだが、それを認めてやる義理はない。

「分かるか? 暗号技術って、数学だけじゃないんだ。物語も、音楽も、絵画も…権力が直接見せたくないものを、形を変えて伝える技術は全部、広い意味での『クリプト』なんだよ」

吾輩は主人を見つめる。そして、ゆっくりと目を閉じる。これが吾輩なりの肯定である。しかし主人はそれを理解しない。人間というものは猫の言語を理解しない。実に不便な生物である。

主人はまた興奮して何か書き始めた。キーボードを叩く音が部屋に響く。カタカタカタカタ。

「これ、noteに書こう…いや、誰も理解しないかな…いや、でも面白いだろ…サイファーパンクの系譜に、ジブリを入れるんだ…手塚治虫も…田中芳樹も…みんな広い意味でのサイファーパンカーだ…」

吾輩は丸くなって眠ることにする。

主人の興奮はまだしばらく続くだろう。人間の興奮というものは猫のそれとは比べ物にならないほど長い。猫は興奮してもせいぜい数分である。人間は数時間、時には数日も興奮し続ける。実に非効率的である。

しかし、主人が楽しそうなのは、少し嬉しい。

吾輩は猫である。暗号も、宮崎駿も、サイファーパンクも、本質的にはどうでもいい。吾輩にとって重要なのは、温かい場所と、適度な食事と、静かな昼寝の時間である。

それだけである。

(以上が吾輩の証言である。主人がこの後、三時間かけてnoteの下書きを書き、翌朝読み返して「これ、ヤバいな…公開したら変人だと思われるかも…」と呟いたことを、吾輩は知っている。しかし吾輩は何も言わない。猫だから。人間の悩みに口を挟むほど吾輩は親切ではない。吾輩は猫である。名前はまだ無い。)


この記事は note.com から KTBLOG に移行されました。元記事: https://note.com/famous_prawn2009/n/n28f94af446c1