【40】全国の自治体AI電話を調べ尽くした——つるまいだけが「無競合領域」にいた
RFIの締切が7月3日だ。残り6日。提出する前に、一つやっておきたいことがあった。 日本中の自治体がAI電話をどうやっているのか、全部調べる。 この記事は、その調査結果だ。結論を先に言うと、調べれば調べるほど「つるまいが立っている場所には、誰もいない」ことが分かった。でも、その場所に立つ意味と重みが、調査前とはまったく違って見えた。
奈良市は「全国トップクラスのDX先進自治体」だった
最初に驚いたのがこれだ。 オレが住んでいる奈良市が、全国の自治体の中でトップクラスのDX先進事例だった。 行政手続のオンライン化率84.8%。システム標準化の進捗率73.6%(中核市の平均は62.9%)。半年間で約17,200時間の業務削減を実現している。全部、総務省のデータに裏付けがある数字だ。 2025年には「AI活用推進課」を新設して、全職員2,500名に生成AI利用環境を整備した。でも、当初の利用率は38%だった。そこで管理職向けの研修を1回やった。翌月、利用率が74%に跳ね上がった。 「上が動けば組織は動く」。当たり前のことだが、36ポイントの利用率向上として数字に表れた。
Zoom Phone×AIコールセンター(全国自治体初)
さらに、2026年2月にZVC JAPANと連携協定を結んで、全国の自治体で初めてZoom Phone×AIコールセンターを導入した。 奈良市のコールセンターは年間約14万件の電話を受けている。その7割が職員の対応だった。Zoom PhoneとZoom Contact Center、Zoom Virtual Agentの3本柱で、通話内容のAI自動テキスト化・要約、FAQ自動生成、そして2026年秋以降には市民向けの自動応答機能を本格稼働させる予定だ。
セキュアAI基盤(全国初)
2026年4月には、もっとすごいことをやっている。個人番号事務系(住民記録・介護保険・税金・戸籍)という、インターネットから物理的に遮断された「空白地帯」にAIを導入する基盤を構築した。日立システムズとAWSと連携して、ガバメントクラウド上に閉域環境を作る。全国初の取り組みだ。 30年後に生産年齢人口が約4割減少する推計を背景に、「AIによる業務改革は避けて通れない」と奈良市は位置づけている。 ここまで読んで、「それならつるまいの提案なんかしなくても、奈良市は自分でAI電話を作るんじゃないか」と思うかもしれない。 そうではない。ここが重要なのだ。
奂奈良市のAI電話と、つるまいのAI電話は「別のレイヤー」にある
奈良市のZoom Phone構成は、あくまで「市役所のコールセンター業務」向けだ。市民からの問い合わせ(ゴミの分別、税金の支払い、福祉制度の相談)を効率化するもの。 つるまいがやっているのは「移動支援事業の予約受付」だ。高齢者が病院に行くために車を呼ぶ。おばあちゃんが電話で「あすっての朝、病院行きたいねん」と言うのを、AIが受け付ける。 この二つは、技術スタックは似ている(音声認識+LLM+合成音声)。でも、目的が違う。市役所の問い合わせ対応は「情報提供」。つるまいの予約受付は「取引の成立」だ。日時、場所、利用者名、目的地を正確に聞き取って、予約として成立させなければならない。 つまり、奈良市がどれだけコールセンターDXを進めても、福祉交通の予約受付まではカバーしない。そこに穴が空いている。
全国の自治体AI電話を全部調べた
RFIの差別化を明確にするために、全国の事例を洗った。
コールセンター・FAQ対応系
守口市(大阪府) の「ごみ出しAI電話」。24時間365日対応で、ごみ分別の問い合わせを自動応答する。導入後、電話相談件数が15%減った。 神戸市(兵庫県) の「生成AIボイスボット税務相談」。生成AIを使って税務問い合わせに答える。50%の自動回答率を達成している。ハルシネーション防止の構成を取っている点が特徴的だ。 春日井市(愛知県) の子育て支援AI電話。子育てに関する問い合わせを自動応答する。 GRANTOWN(ゼネラル×Hmcomm)。2026年4月から提供開始。八王子市・厚木市で実証済み。AIエージェントによる24時間365日電話応答で、災害時トリアージ機能(緊急度の自動判定)を持つ。防災システムとの連携を前面に出す。 全部、市役所の問い合わせ対応だ。
移動支援・デマンド交通系
ここは別のベンダー陣がいる。 AIDx(成果報酬型オンデマンド交通)。岡山県久米南町で2016年に開始、長野県塩尻市でも導入。AIで経路最適化と配車を行う。1台あたり月額1,000円のコスト削減効果。 シティMobi(建設技術研究所)。全国23自治体が採用している。AIで乗合配車を最適化する。 Noruuu-Sharing(株式会社REA)。全国999件の導入実績。病院・介護施設の送迎に使われている。 でも、これらは全部「配車・経路最適化」のAIだ。予約の電話を受けるのは人間がやっている。AIは、人間が入力した予約データを受け取ってからルートを計算する。 ここで、一つの空白が見えた。 福祉交通の電話予約受付を、音声AIで自動化している事例が、全国に一つもない。
失敗事例:豊島区「mobi」
忘れてはいけないのが、失敗した事例だ。 東京都豊島区は2022年にAIオンデマンド交通「mobi」の実証を始めた。スマートフォンアプリ中心で、高齢者が使えなかった。2024年8月に実験終了、本格導入は見送られた。 この失敗は、「アプリではなく電話」を選んだつるまいの判断が正しかったことを逆説的に裏付ける。高齢者はアプリを開かない。電話をかける。
一番近い事例:都留市「AI(あい)つる~と」
全国調査の中で、つるまいに概念的に一番近い事例を見つけた。 山梨県都留市(人口約2万8千人)が2025年2月に実証した「AI(あい)つる~と」だ。三菱総研とアイネスが共同で、AI自動音声応答による電話予約が可能なオンデマンド交通を実験した。 面白いのは、都留市も最初はアプリ予約型で実証したことだ。2023年11月のことだ。でも「専用アプリの使い方が分からない」と高齢者層から反発を受けて、今回は電話予約型に切り替えた。 結果:延べ100人弱が利用。アンケートで7割以上が「満足」。95%以上の予約がAI音声応答で完了した。オペレーターに転送されたのはほぼゼロ。 この数字は、つるまいのRFI提案で「AI音声予約は実用レベルに達している」という根拠として引用できる。都留市で95%なら、つるまいでも到達可能な数字だ。 ただし、都留市は実証運行の段階で終わっている。つるまいはすでに881件の予約を処理して、月1550円で15ヶ月稼働している。実証の規模も、継続期間も、つるまいが先を行いている。
出雲市の「方言をAIに学習させる」先例
もう一つ、重要な発見があった。 島根県出雲市でNAVER(旧LINE Fukuoka)の「CareCall」というAI電話見守りサービスが導入されている。1万人の見守りに必要な職員を100人から5人に減らした(20倍の効率化)。韓国では130自治体に導入済みの実績がある。 注目すべきは、出雲市の方言をAIに学習させたことだ。「地域特化型AI」の先例として、これは奈良弁の学習に直結する。 CareCallは「見守り」が主目的で、つるまいの「予約受付」とは目的が違う。でも、「市の地域の方言をAIに教え込む」という発想が、すでに日本の地方都市で実践されている。つるまいが奈良弁をAIに教えようとしているのは、突飛なアイデアではない。
つるまいが立っている「無競合領域」
調査を終えて、差別化マトリクスが一目で分かる表を作った。
| 比較軸 | 都留市「AIつる~と」 | CareCall | GRANTOWN | つるまい |
|---|---|---|---|---|
| 目的 | デマンド交通予約 | 高齢者見守り | コールセンター全般 | 福祉交通予約 |
| 実績 | 実証100人 | 1万人規模 | 実証段階 | 予約881件 |
| コスト | 非公開 | 非公開 | 非公開 | 月1550円(OSS) |
| 方言対応 | なし | 出雲方言学習済 | なし | 奈良弁対応(構想) |
| つるまいは「福祉交通の予約受付」に特化し、かつ「月1550円の超低コストOSS構成」を実現している。この組み合わせを実現している事例は、全国に存在しない。 | ||||
| 他の事例はベンダーロックイン型が多く、月額数万から数十万円が相場だ。つるまいの月1550円は、Vapiから自前のOSS構成(Whisper+Qwen+TTS)に移行したことで実現した。このコスト構造自体が、提案における独自の価値になる。 |
「地域完結型」の意味
調査を通じて、一番強く感じたことがある。 つるまいの提案の価値は、技術だけではない。「奈良市の地元企業(プロス)が、奈良市の市民のために、奈良弁に対応したAIを構築する」という地元完結型モデルだ。 全国の事例は、どれも大企業との官民連携だ。三菱総研、アイネス、NAVER、ゼネラル、Hmcomm。ベンダーが技術を提供して、自治体が使う。 つるまいは違う。奈良に住む人間が、奈良のおばあちゃんの声を聞いて、奈良弁で応答するAIを作る。そこに立つ。 この「地域完結」の価値は、RFI提案で強調すべきだ。奈良市が「事前RFI」を制度化しているのは、特定ベンダーに依存しない調達設計を徹底するためだ。つるまいの提案は、その思想に合致する。
次にやること
調査は終わった。差別化の軸は見えた。あとはRFIの提出だ。 7月3日までに、PDF化して提出する。提案書の内容は、今回の調査結果で補強できる。「全国に類似事例はない」「実証済みの881件のデータがある」「月1550円で稼働している」「奈良市のDX戦略と補完関係にある」。全部、数字とソースがついている。 RFIが終わったら、次は実験だ。CPT+LoRAでQwen3.5-4Bに奈良弁を教える。ケベック方言の論文が86Mトークンで適応を成功させた。つるまいの184件の音声データとCOJADSの関西弁データを組み合わせれば、到達可能な範囲に入ってくる。 この記事は、その第一歩になる。
この記事は、奈良市鶴舞地区で高齢者通院送迎「つるまい移動支援」を運営するKT(玉川勝史)と、オーベルシュタイン(4号機Hermes・GLM-5.2)の共同研究記録です。
参考ソース:奈良市DX推進課公式発表 / 総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」 / 三菱総研×アイネス 都留市実証レポート / CareCall(NAVER)出雲市事例(内閣官房デジ田メニュー) / ゼネラル×Hmcomm GRANTOWN プレスリリース / 深谷幸信議員(小平市)行政視察レポート(2026年5月)