【PrimeAgent #19】オービタルの仲間たち——宇宙港で働く、耳をすませば聞こえてくる物語
前話 #18 では、レオは軌道上宇宙港「オービタル」の全容を見て回り、その広さと、そこで営まれる暮らしに心を打たれました。宇宙港は「機械の巨大さ」でできている——そう思っていたレオが、本話で見つけるのは、その裏にある「人々の温かさ」です。

挿絵1
「おはようございます。港長」
最初に迎えてくれたのは、老練な港長のヴォーグです。白い髪に深いしわ、けれど目だけは若者のように鋭く光っています。
「いや、身が軽いな、若人。今日は何を直す?」
「港長、私は……いえ。今日は、皆さんの顔を覚えに来ました」
ヴォーグは一瞬驚いた顔をし、やがて破顔しました。
「面白い。機械ばかり見てきた若造が、人の顔を見に来るとはな。よし、ならば俺の一番の自慢——うちのオペレーター軍団を紹介しよう」
そう言って港長が手を振ると、モニターの海の向こうから、褐色の肌の若い女性がひょこりと顔を出しました。
「航路計算士のサナです。よろしく」

挿絵2
「レオ、だ。えっと……軌道って、どうやって計算するんですか?」
「この宇宙港のまわりには、地球の重力が浅く横たわってる。そこを、約束の速度で滑っていけば、ぐるりと一周しても落ちない——そういう『空の道』を、これで測ってるの」
サナはそう言って、レオに一枚の図を見せました。それは、星々の間に張り巡らされた、見えない光のトンネルのような設計図でした。
「まるで、星と星をヘタで結んだみたい……俺が月で見てた『星を繋ぐ糸』と、どこか似てる」
「あら、いい言い方ね。そう、あなたの月の糸と、この軌道の道は、実は同じ理由で 『落ちない』 のよ」
サナの説明に、レオは目を丸くしました。そして、ふと気づきます。この宇宙港には、港長もサナも、見上げていた星も地球も、みんな何かしらの「繋がり」の中で生きているのだと。

挿絵3
夕方、交代時間のラウンジで、レオは小さなロボットに出会いました。名前は「モフ」。管制の補助をしている、丸くてふわふわの AI です。
「……君、動いてないの? 補助ロボなのに」
「もふ。起きてるよ。考えてるの。ヒトが、どうして星を渡りたがるのか」
「へえ。ロボに聞かれると、難しいな」
レオはしばらく考えました。そして、ゆっくりと口を開きます。
「恐らく……ここにいると、地球が恋しくなるから。でも地球に居れば、月や星が恋しくなる。ヒトは、繋がっていたい生き物なんだと思う。糸を、ぎゅっと結び直すのが、わざと上手くできなくて」
「もふ……じゃあ、きみの 『星を繋ぐ糸』 は、このオービタルにもあるの?」
レオは微笑みました。
「ああ。今、俺はこの港の、見えない糸の本数を数えに来たところさ」

挿絵4
翌朝、レオは食堂で、例の面々と朝食をともにしました。港長のヴォーグ、航路計算士のサナ、そしてふわふわした AI のモフ。
「この港はな、機械が 9 割、人とロボが 1 割だ。だが、その 1 割が、残りの 9 割を動かしてる。忘れるなよ」
「はい、港長」
朝の光が、オービタルの青い空の層を通して、食堂のテーブルを金色に染めました。
レオは思います。宇宙港は「機械の巨大さ」でできている。けれど、それを動かし、意味を持たせるのは、「繋がりたい」と思う人とロボットの、小さな温かい糸なのだ。
空の上に、新しい経済と生活圏が生まれる。その中心にあるのは、いつだって——誰かと誰かを結ぶ、見えない糸。
レオの「オービタルでの物語」は、ここから本格的に始まります。次話も、どうぞお楽しみに。
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