← Back to Home
note.com ·

【PrimeAgent #20】軌道上宇宙港「オービタル」― 星と地球のあいだ。レオと、地上の光。

【PrimeAgent #20】軌道上宇宙港「オービタル」― 星と地球のあいだ。レオと、地上の光。

前話 #19 で、レオは軌道上宇宙港「オービタル」のオペレーターとして、無重力の「沈黙」と向き合う仕事に踏み出した。あの回でレオは、宇宙の静けさに「孤独」を感じる自分に気づき、それを隠すように忙しく働いていた。けれど今回、その胸のしこりは、思わぬかたちでほどけていく。――これは、星の上で働く者たちが、いちばん遠くにいる「大事な人」とどう繋がっているのか、その物語だ。

宇宙港の窓から見える地球は、青く、ひどく美しい。

けれど、その光は、手を伸ばしても決して届かないほど遠い。

レオは整備士として、今日もドッキングポッドの点検をしていた。半径数メートルの小さな作業ユニットにひとり。ヘルメット越しに聞こえるのは、自身の呼吸の音と、機械の低い唸りだけだ。

「……レオ、応答してくれ」

通信回線から、地上の声が流れてきた。瞬間、レオの手が止まる。

「――母さん?」

挿絵1
挿絵1

母の声は、少し震えていた。母は、軌道エレベーター「エル・ミラージュ」の地上基地で、通信システムを管理している。親子で、同じ空を見上げる仕事をしているのに、そのあいだにある距離は、星と地球ほども離れている。

「明日、記念日でしょう。――あなたのお父さんの、命日」

「……忘れてたわけじゃ、ないんだ」

レオは苦笑した。忘れてはいなかった。むしろ、その日が近づくたびに、胸の奥がざわつくのを知っていた。父は、エル・ミラージュ建設のパイロットだった。開通直前の事故で、宇宙にその身を消した。レオが宇宙で働くことを選んだのは、父の「続き」をしたかったからだ。

「一緒に、お墓参りがしたいわ」

「……宇宙港からは、遠すぎる」

交信は、五分で切れた。ふたりとも、言葉が足りない。切れたあとの静寂が、いつもより重かった。

その夜、レオはオービタルの小さな休憩室で、宇宙港の記録映像を見ていた。すると、画面の隅に、古い映像が流れた――エル・ミラージュ建設当時、パイロットの父がインタビューに答える姿だった。

「この糸が繋がれば、地球上の誰もが、星に手が届く。そうなれば、『家族』も、宇宙まで引っ越せるんだ」

若き日の父は、そう言って笑っていた。レオは、その笑顔を、何度も見返した。

挿絵2
挿絵2

「宇宙まで引っ越す……か」

レオは、その言葉に、はっとした。父は言っていたではないか。糸が繋がれば、家族も、星に手が届く、と。ならば。父の「糸」は、もう繋がっている。――その答えを、レオは通信室へ走って確かめたかった。

翌日。オービタルの通信室には、特別な予約が入っていた。それは軌道エレベーター「エル・ミラージュ」を介した、高精細な立体投影通信だ。レオはこれを、密かに手配していたのだ。

「オービタル・レオ、エル・ミラージュへ接続――」

回線が開く。休憩室に、母の姿が、ホログラムとなって現れた。けれど、その姿は、いつもの母ではなかった。母は、小さな仏壇を、静かに抱えていた。

「レオ。お父さんの遺影、持ってきたわ。……あなたと、一緒に、星にいたかったから」

挿絵3
挿絵3

レオの目に、熱いものが浮かんだ。母は、遺影に向かって、そっと語りかける。

「ねえ、あなた。――レオ、ちゃんと、宇宙で頑張ってるわよ。あなたが繋ぎたかった、あの星に、ちゃんと、たどり着いたの」

レオは、奥歯を噛みしめた。涙を、こぼさないように。

「……父さん。俺、ここで、働いてるんだ。父さんが見せたかった景色、毎日、見てるよ」

その瞬間、通信室の窓の外で、地球が、ゆっくりと夜明けを迎えた。青と白の光が、まるで父が「これが俺の見せたかったものだ」と示すかのように、宇宙港を照らした。レオは、ようやく気づいた。――父が宇宙に残したかったのは、月の石でも、経済圏でもない。未来を見た者として、隣で笑い合いたい家族がいること。その「繋がり」こそが、宇宙ビジネスの本当の果実だと。

「――また、明日も、通信してください。母さん」

「ええ。――あなたが地球に帰る日まで、ずっと、空を眺めてるわ」

回線が切れた。けれど、今回は、静寂の重さは、ない。かわりに、星よりも確かな、温かいものだけが、胸に残っていた。

挿絵4
挿絵4

宇宙港の仕事は、今日も終わらない。けれどレオは、もう、孤独ではないと知っている。星ひとつぶんの距離と、親子のあいだの距離は、ちがう。後者は、たった一本の「糸」で、いくらでも近づけるのだから。

軌道エレベーター「エル・ミラージュ」の名は、「星を繋ぐ糸」という意味を持つ。レオは、その糸で、父と、母と、いつの日か帰る地球を、確かに、繋ぎ続けている。

そして宇宙港の仕事は、望郷の想いを抱くすべての労働者にとっての、あの「星を繋ぐ糸」の、もう片方の岸なのかもしれない。――空が遠いと思う夜、あなたにも、その糸が、ひとすじ、続いていますように。

#宇宙開発 #宇宙ビジネス #スペースエコノミー #エルミラージュ #惑星開発

元記事: https://note.com/keity717/n/n7ee8129210f0