128GB革命 #1 M5 Maxを走らせる者たちの完全地図
17回連載の第1回。M5 Max 128GBローカルLLMコミュニティの完全地図。13人の実在確認、4層エコシステム、38万行の実測データ。
128GB革命 #1 M5 Maxを走らせる者たちの完全地図
スターバックスでベンティを頼む人の気持ちって、なんとなくわかるよね。普段使いならトールで十分なはずなのに、どうせなら最大、って。でも大抵は最後の3分の1が冷めたまま残る。MacBook Proのメモリ128GBというスペックも、長いあいだそういう「ベンティ」扱いだったんだよね。文章を書いて、ブラウザを開いて、たまに写真を現像するくらいなら16GBで足りる。32GBで過剰。64GBで完全に充足。なのにその上を行く128GB。いったい誰が、何のために買うのか。2026年8月時点での答えは、ほぼひとつに収束している。ローカルLLMのため。クラウドに頼らず、AIを自分の膝の上で動かすためだ。
この連載は、その「ベンティを最後のひと滴まで飲み干す人たち」の全記録になる。題して128GB革命。M5 Max 128GBというマシンを軸に、誰が、どんなツールで、何tok/sで動かしているのか。2026年8月に丸ごと調査した一次データを、17回に分けて読み解いていく。まず第1回は地図を広げるところから始めよう。
128GBがないと載らないもの
ローカルLLMの世界でメモリは土地のようなものだ。モデルのパラメータがすべてRAMに乗る。乗らなければ動かない。単純な話なんだけど、この「土地の広さ」が最近急に重要になった。理由はDeepSeek V4 Flashという284Bパラメータのモデルが、MoE(専門家混合)構造で実行時に約13B分だけ賢く使う設計なので、IQ2XXS量子化を施しても約81GBを要求するから。つまり64GBのMacには物理的に載らない。128GBの機械だからこそ初めて、フロンティア級の巨大モデルがノートPCで動く時代が来た、ということなんだよね。
実際の速度はどうか。Zennで実測記事を書いているkamo78氏の計測では、DeepSeek V4 Flashは34.1 tok/s。Redisの作者として知られるantirez氏が自作エンジンds4で測った短いプロンプトなら39.35 tok/s。人間が読める速度で、しかも無料で、オフラインで、284Bクラスのモデルが動く。数年前ならA100数枚分の環境が要ったものが、バッテリーで動くノートで完結する。この落差が、人々を興奮させている。
もうひとつ数字を挙げておくと、Reddit投稿者のu/ConformalFuelTank氏がQwen3.5-122B-A10Bを前世代のM4 Max 128GBで動かして65.8 tok/sを記録している。122Bクラスのモデルが会話速度を余裕で超えてくる。ベンチマークサイトLLMCheckの集計では、M5 Max 128GBに収まるモデルは81種のうち59種。つまりこのマシンは「ちょっと速いノート」ではなく、動かせるモデルの母数そのものが違う、一種の端末になっている。
コミュニティは広場じゃなくて銀河
で、そういう人たちはどこに集まっているのか。調査の結論から言うと、単一の大きな広場は存在しない。Redditをハブに、X(Twitter)の実測投稿者、Apple系のYouTubeクリエイター、専門メディア、そして日本語圏のZenn・note・Qiita発信者が放射状に連なる、4層構造のエコシステムなんだよね。
層を上から見ていこう。第1層はハブで、Redditのr/LocalLLaMAとr/LocalLLM。ベンチマーク投稿の主戦場と、導入相談の場という分担がある。第2層は拡散で、Xの@jun_song氏や@bridgemindai氏らが実測スクリーンショット付きで投稿し、ハードウェア指南が即座に波及する。@jun_song氏の「2千ドルならRTX 3090、4千ドルならDGX Spark、7千ドルならM5 Max 128GB」という階層ガイドは、この界隈で事実上の基準として引用され続けている。第3層は制作で、oMLXを開発したjundot氏、ds4を書いたantirez氏、LM StudioのMLXランタイム、exoによる分散推論といった、道具そのものを作る人たち。第4層は支援で、日本語圏が担っている。Zennのkamo78氏によるテレメトリ検証や、LM Studioのエラー対処のような、運用ノウハウの供給だ。
ここで面白いのは、コミュニティの心臓部が「使う人」ではなく「作る人」だという構造。r/LocalLLaMAで最多の2016票を集めたベンチマークスレを投稿したu/cryingnekoの正体は、実はoMLXの開発者jundot氏本人だった。数字を一番盛大に出している場所の中心に、道具を作った本人がいる。オープンソースの理想形が、ちゃんと機能している現場なんだよね。
地図に載せた13人、載せられなかった3人
この調査では、名前を挙げる前に全員の実在を確認した。結果、実在が確認できたのは13人。Xの英語圏が5人、Redditの実測投稿者が3人、日本語圏が5人。それぞれ投稿や記事、動画という形で痕跡が残っていて、実測値の出どころをたどれる人たちだ。例えばYouTubeの@0x5am5氏はM5 Max 128GB上でoMLXを使ったエージェントコーディングの実演動画を出しているし、あきらパパ氏はMLXとGGUF両対応の自作モデルakira-papa 1.0を公開している。いるのかどうか分からない人の話をしても仕方ないので、この連載では原則としてこの13人の実測だけを扱う。
一方、どうしても載せられなかった3人がいる。@C_of_Creativity、@ktam72、@hasegawaの3名は、Web検索、X、Reddit、Facebook、note、Zenn、Qiitaのすべてで痕跡がゼロだった。実在するとしても非公開か、別名か、ハンドル表記の誤りだろう。正直に言って、調査で一番粘ったのはこの確認作業だったんだよね。名前だけが独り歩きして、実態が伴わない情報は、この世界では毒になる。だからこの3名については「実在未確認・要検証」という枠で保存してある。第15回で改めて扱う予定だ。
なぜここまで実在にこだわるのか。それは、このコミュニティの通貨が「数字の出どころ」だから。38万行以上の実測が集まるoMLXのコミュニティベンチマークに象徴されるように、誰もがモデル名、量子化、コンテキスト長、tok/sを明示して投稿する。その文化を壊さないためにも、人物と数字の両方で出どころを切る連載にしたい。
38万行の数字の海で泳ぐ
さきほど38万行という数字を出したけど、これの意味を少し説明しておく。oMLXはjundot氏が開発したMac向けLLM実行基盤で、そのコミュニティベンチマークサイトには38万行を超える実測データが蓄積されている。誰かが自分のマシンで計って、投稿する。それが積み重なった海だ。M5 Maxの40コア構成でフィルタをかけると、たとえばgemma-4-31bのbf16版が4kコンテキストで7.1 tok/s、バッチ8並列なら27.9 tok/sに伸びる、といった具合に、条件付きの数字が山のように読める。
こういうデータの海には、雑誌の記事では得られない種類の真実が沈んでいる。たとえば128kコンテキストまで伸ばすと同じモデルが1.6 tok/sまで落ちる、とか。条件が変われば数字は別物になる、という当たり前の事実を、38万行が静かに教えてくれる。ベンチマーク職人たちが淡々と投稿を続けているおかげで、僕らは広告文句ではなく実測の精度で機械を選べる。この連載で何度も引用する数字のほとんどは、この海と、そこに注ぎ込む個人の実測から来ている。
そしてもうひとつ、地図を持つ意味。帯域幅の数字だけ挙げておこう。M5 Max 128GBのメモリ帯域は約614GB/s。対するNVIDIAのDGX Spark 128GBは約273GB/s。2.25倍の差がある。ただ、この差がそのまま性能差にならないところに、この世界の面白さがある。帯域がボトルネックになるのはDenseモデルだけで、MoEモデルではGPU演算側が律速になる、という通説の訂正が、今回の調査で最も重要な発見だったからだ。これについては第7回と第8回で、kamo78氏のmactopテレメトリという唯一の定量証明とともに掘り下げる。
この連載でやること
全17回のざっとした構成を示しておく。まず第2回から第6回で人を見る。2016票のスレを生んだjundot氏、2週間でds4を書いたantirez氏、階層ガイドの@jun_song氏、実測映像の@bridgemindai氏、そしてベンチ職人たち。第7回から第11回で数字を検証する。実測DBの読み方、通説の訂正、熱によるスロットリング、ノート筐体の冷却という呪い、M4 MaxからM5 Maxへの進化。第12回と第13回はDGX Spark論争の判定。第14回で日本語圏の底力、第15回で消えた3人の話、第16回で128GBに載るモデルの完全地図、そして第17回でまとめの代わりに次の問いを立てる。
約束は3つだけ。数字はすべて2026年8月の一次調査データから引くこと。推定値には推定と明記すること。そして実在しない話をしないこと。スタバの cup に例えるなら、混ぜ物なしのブラックで出します、ということ。冷めかけの比喩や話題の盛りはなるべく控えて、数字と出どころの味だけで勝負する連載にするので、辛口が好きな人はぜひ最後まで付き合ってほしい。
次回は、2016票を集めたあのスレッドと、その中心にいたoMLX作者jundot氏の話。数字だけを投下する男の正体を追う。