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AI・研究 ·

【84】人口7,000人の町で自動運転車を作る——鶴舞モビリティ構想

ひたちBRTのL4営業実績から奈良県の実証、環境省補助金まで一次情報で検証し、鶴舞地区で低速EVを自作する3世代計画を組み立てた

【84】人口7,000人の町で自動運転車を作る——鶴舞モビリティ構想

自宅に10 TOPSのAIコンピュータ「RDK-X5」で動く自動運転RCカーがある。カメラで道を認識し、障害物を避け、与えた経路を追従する。配線むき出しの1/10模型だが、この子を走らせていると、いつか同じことを人間サイズでやりたくなる。

僕が住むのは奈良市鶴舞地区。人口およそ7,000人。高齢化が進み、商店と病院と駅が遠くなりつつある、ごく普通の住宅地だ。ここで4年間、移動支援の電話受付と配車を続けてきた。予約は累計881件。その経験から出た結論がある。

人を乗せる低速EVを、この町で作れる。技術も制度も、もう揃っている。以下、その根拠を一次情報で示す。

1. まず結論——「どこでも走れる車」を作らない

自動運転と聞くと、多くの人はWaymoのような「なんでも走れる車」を想像する。あれを作ろうとした瞬間、プロジェクトは破綻する。相手にすべきはAIの能力ではなく、無限に続く稀少ケースの海だ。

発想を逆にする。自動運転の世界にはODD(運行設計領域)という概念がある。「この地区の、この道を、昼間だけ、最高速度8km/hで」と、走れる世界を先に狭めて定義してしまう。そうすると問題は「全国の公道を理解するAI」から「鶴舞という巨大な工場内を走るロボット」に変わる。

工場内ロボットなら、僕は知っている。かつて勤めていた射出成形工場で、850トンの金型から素手で製品を取り出す仕事を、ロボット自動化で人間の手上げに変えた。あのとき学んだのは、自動化の本質は技術の優劣ではなく、工程をどこまで固定できるか、だった。地域を一つの工場と見なす瞬間、自動運転は途端に工学的に素直な問題になる。

2. 日本のレベル4は、すでに営業している

未来の話だと思っている人には、まず数字を見てほしい。

茨城県日立市のひたちBRTでは、2024年12月18日に営業車両としては国内初となる特定自動運行の許可を取得し、2025年2月3日からレベル4(車両が全責任を負う自動運転)の営業運行を始めている。日立電鉄線の廃線跡を活用したBRT専用道6.1kmを、中型バスが自動運転で走る。2025年2月から2026年1月までの実績は、走行1,655便、乗客のべ8,284人(1日平均38.9人)、総走行約10,096km。

この路線のODD設計が巧みだ。バス停14箇所、一般道との交差11箇所、歩行者横断指導線15箇所を含む専用道で、最高速度40km/h以下。歩行者が専用道から2m以内にいると検知したら、進入を想定した速度まで減速して通過する。汎用的な賢さではなく、地形に合わせた運転ルールの設計で安全を作っている。しかも2026年度中には、車内に人を乗せない遠隔監視型の営業運行を目指していると公言している。

東京でも動きがある。2026年1月13日から、千葉県柏市柏の葉地区の公道(歩車混在空間)で中型バスによるレベル4運行が始まった。東京都市圏の公道では初めてだ。海外勢も来ている。May Mobilityは日本でのレベル4認証取得を進め、5G経由の遠隔監視で同乗者を置き換える検証を進めている。NTTはレベル4遠隔監視向けの通信安定化ソリューションを商品化した。

自動運転は「実証の時代」を終え、「営業と制度整備の時代」に入っている。

3. 奈良県は、すでに2年続けている

ここが僕にとって一番の発見だった。

奈良県は明日香村と三郷町で、自動運転バスの実験走行を2年連続で実施している。2025年1月が三郷町(JR三郷駅〜FSS35キャンパス)、同年1月末から2月が明日香村(近鉄飛鳥駅〜高松塚古墳〜キトラ古墳)。運賃は無料、定員13名、1時間1便で、予約優先制。県のリニア・地域交通課が主催し、東海理化が遠隔監視システムを担う。奈良交通も2026年1〜2月、京都府の京田辺市・木津川市でのレベル4許認可取得を見据えたEVバス実証に参加した。

つまり奈良は自動運転後進県どころか、着実に経験を積んでいる。ただし、どの事例も「バス」で「観光地・駅圏」だ。住宅地の個別宅配、病院への通院移送、といった高齢者の生活の末端までは届いていない。届いていない理由は簡単で、バスはダイヤとルートが固定の乗合だからだ。

一方で僕らの電話受付の記録を見てほしい。881件の予約は、ほとんどが「自宅から病院へ」「スーパーへ」という個別の需要だ。乗合の公交に置き換えられない、一番細い血管の流れである。ここに小さな車を1台、低速で走らせる。需要の形はすでに4年分のデータとして手の中にある。

4. 時速20km/h未満という魔法の線

速度の線が、制度の線になる。

国土交通省が推進するグリーンスローモビリティは、「時速20km未満で公道を走れる電動車を活用した小さな移動サービス」の総称だ。2010年代から全国で導入が進み、国交省の走行実績一覧では2021年4月時点で98カ所を数える。ゴルフカート型の低速EVで、大掛かりな運転免許も大出力の車検も要らない。この枠組みはまさに「自作グリーンスローモビリティ+AI」のための皿として置かれている。

補助金もある。環境省の令和7年度グリーンスローモビリティ導入促進事業(二次公募、2025年10月20日〜11月14日)は、1台あたり上限300万円、補助率2分の1で車両購入費を支援する。対象は民間企業、地方公共団体、一般社団法人、NPO法人。注目すべきは対象経費だ。充電設備費に加えて、予約・配車システムの構築費、GPS追跡システムの導入費、ドライブレコーダー、住民向け説明会の開催費まで含まれる。

つまり僕らが4年かけて作ってきた「電話受付→予約→配車」の仕組みそのものが、補助対象に書かれている。車両とシステムを一括りにした地域移動サービスとして申請できる設計だ。

先行例もある。和歌山県太地町——人口およそ3,000人の町——は2022年に自動運転カート(レベル2)の実証を2ヶ月行い、494人が利用した。その後2台体制・1日18本に増便して実運用に移行した。鯨の町の細い道を、時速10kmそこそこのカートが平日に走っている。人口7,000人の鶴舞にできない理由は、どこにもない。

5. 僕ならこう作る——3世代計画と「止める権限」の分離

設計思想の中心は、一つの断言に集約される。AIコンピュータに命を預けない。

車には2つの頭脳を載せる。1つは運転を考える頭脳(RDK-X5、ROS 2、物体認識、自己位置推定、経路追従)。もう1つは止める権限を持つ頭脳(ESP32やSTM32のような安価で堅牢なマイコン)だ。後者は独立した電源と配線を持ち、前者がフリーズしたら車を止め、カメラが死んだら止め、通信が途絶えたら止め、自己位置を見失ったら止める。非常停止ボタンと物理バンパーもこの系統に直結させる。10 TOPSの推論性能より、この分離構造のほうがよほど重要だ。

開発は3世代に分ける。

第1世代は人間運転+AI安全支援。時速6〜10km、運転者あり。AIは歩行者検知・自動減速・衝突直前停止だけを担当する。まずここを完成させる。

第2世代は低速半自動。発進、ルート追従、交差点手前停止、徐行、目的地停止を自動化し、危険区間だけ人間が操る。AIに求められる能力が猛烈に下がる分、信頼は早く積める。

第3世代で初めて鶴舞地区限定の自動運転に挑む。ODDは明文化する——鶴舞地区のみ、最高速度8km/h、昼間のみ、晴天・小雨のみ、指定道路と指定乗降地点のみ、踏切と幹線道路は禁止、危険交差点は遠隔確認、異常時は即停止。レベル4の特定自動運行の許可制度は2023年4月から施行されており、限定地域・遠隔監視型の無人サービスを想定した枠組みがすでに存在する。

鶴舞専用の工夫もできる。乗降地点に小さなランドマークを設置すれば、車は道路全体を理解しなくてよくなる。そして利用者はスマホすら要らない。電話→AI受付→予約→配車→「○○さん宅へ」。今の移動支援の流れを、車両側までそのまま伸ばすだけだ。第1世代のプロトタイプは自作でいい。48V電装、低速高トルクモーター、人間の操作系を残したDBW(操縦系電子化)実験車。3Dプリンターはセンサーマウントと電装ボックスに使い、サスペンションとブレーキは金属で作る。オープンソースのAutowareやROS 2の資産が、土台として使える。

6. 最初の90日——動き出すための現実的な順番

構想だけでは動かない。僕はこういう順番で着手する予定だ。

最初の30日は、観察に使う。すでに走っているRCカー実証機に記録機能を持たせて、鶴舞の実際の道——狭隘路、坂、踏切周辺、通院先の病院入り口——を歩行速度で走らせ、どこで認識が崩れるかを記録する。同時に、881件の予約データを乗降地点ごとに集計し直し、「指定乗降地点」の候補を20箇ほど選ぶ。どの道を走るかより、どこで停まるかの設計が先だ。

次の30日は、第1世代の車体設計に充てる。48V電装の定電圧確認、低速高トルクモーターと減速機の選定、ステアリングアクチュエータ、独立系Safety MCUの停止ロジック。ここで大切なのは、全部品を1社に頼らないこと。シャシーは既存の認証済み低速EVから流用するか、ゴルフカート系の市販車をDBW化するか、供給不安の少ない経路を選ぶ。自作にこだわるのはセンサーマウントと制御系だけでいい。

最後の30日は、制度との対話だ。環境省のグリーンスローモビリティ導入促進事業は例年秋に公募が来る。車両費に加えて予約・配車システム構築費と説明会費が対象になる今回の設計は、電話受付から車両までを一つの事業として申請できる好例だ。あわせて奈良県のリニア・地域交通課には、明日香村・三郷町の実証で培った審査・警察協議の経験が蓄積されている。門戸は想像より開いているはずだ。

90日終了時の成果物は3つ。鶴舞の実道走行ログ、第1世代の部品表と図面、補助金申請の叩き台。すべて、机上の構想ではなく、場所と番号が付いた紙になる。

7. なぜ「地域が主体」でなければならないか

最後に、この構想の本当の価値について。

メーカー製のレベル4バスは1台6,500万〜1億円の世界だ。それを大企業と自治体が協議会で調達する。それはそれで正しい道筋だが、プラットフォームが外部に握られる。走行データも需要データも、地域の外へ持ち去られる。僕が目指すのはその対極だ。人口7,000人の一地域を丸ごとODDとして、車両・電話受付・配車AI・地域の需要データまでを、地域の中で垂直統合する。鶴舞の車は鶴舞のデータで賢くなり、鶴舞の予定表で動く。

RCカーは、その1/10模型の実証機として最良の出発点だ。配線とコードはそのままに、寸法だけを10倍にすればいいわけではないが、認識・追従・停止の制御思想は等しい。あの模型を鶴舞の実際の道で走らせた記録は、そのまま第1世代への設計入力になる。

自動運転車を作る、と聞くと夢物語に聞こえるかもしれない。だが要素をばらせば、廃線跡を6年かけてレベル4にしたバス会社も、人口3,000人の町でカートを走らせた漁師町も、20km/h以下の低速EVに年300万円を出す環境省も、みんな「走れる世界を狭く定義する」ことから始めた。僕らには、それに加えて4年分の電話の記録がある。

次の一手は部品表を起こすことだ。48V電装、モーター、Safety MCU、センサー群、ROS 2のノード構成まで、1台組める設計図レベルまで落とす。RCカーはもう走っている。あとは10倍の勇気だけだ。

(2026年8月15日・ケイティ)


主な出典:

  • 茨城交通「国内最長距離&国内初の中型バスでのレベル4自動運転の営業運行」ニュースリリース(2025年1月24日)
  • RoAD to the L4 テーマ2「公道交差を含む専用道区間等におけるレベル4自動運転サービスの実現に向けた取り組み」(進捗状況・乗車実績)
  • 経済産業省「一般道における中型バスでのレベル4自動運転による運行を開始」(2026年1月13日、柏の葉)
  • 奈良県「自動運転バスの実験走行」(明日香村・三郷町、令和6年度・令和5年度)
  • 奈良交通「レベル4自動運転技術の許認可取得に向けて実証」(2026年)
  • 国土交通省「環境:グリーンスローモビリティ」
  • 環境省「令和7年度グリーンスローモビリティ導入促進事業の二次公募について」(2025年10月20日)
  • 日経xBP「自動運転カートと町の『公園化』で高齢者の外出促進」(太地町、2023年)