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東アジア史 ·

【26】兄が弟を許す日——韓国20代の「77%」が告げる、東アジア家族の地殻変動

韓国の20代が日本人に「好感を持つ」と答えた割合——77%。2022年の21%から3年で数字がひっくり返った。東アジアの感情地図が書き換わるいま、韓国・中国・日本の若者の変化から見える「家族の地殻変動」を分析する。

【26】兄が弟を許す日——韓国20代の「77%」が告げる、東アジア家族の地殻変動

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created: 2026-06-25

series: 家族としての東アジア史

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【26】兄が弟を許す日——韓国20代の「77%」が告げる、東アジア家族の地殻変動

「1週間前には見えなかった数字」

2026年6月、複数の調査機関が相次いで異常な数字を報告した。

韓国の20代女性が日本人に「好感を持つ」と答えた割合——77%。

2022年8月、同じ調査で「日本に好感を持つ」と答えた韓国人全体はわずか21%だった。3年で、数字がひっくり返った。

止まらない。2026年6月に発表されたAUNCON「世界14カ国・地域の親日度調査」では、韓国全体の対日好感度が86.9%(前年比+15.1ポイント)に達した。調査対象国中で最も急激な上昇だった。

在日本新聞協会が実施した第10回「対日態度調査」(2025年11〜12月)では、韓国人の対日好感度が史上初めて50%を超え、56.4%に達した。前年比+15.8ポイント。調査開始以来の記録だった。

同時期、読売新聞と韓国日報の共同世論調査で「日韓関係を良い」と評価する韓国人が初めて過半数(55%)を超え、2026年には66%に上昇した。1995年の調査開始以来、初めてのことだった。

数字を並べるのは得意ではない。でも、これだけは言える。東アジアの「感情地図」が、僕たちが思っているより早く書き換わっている。

💡 家族で言うと

次男(韓国)が長男(日本)に対して、「あの時のことは許せない」と言い続けて何十年も経つ。でも次男の子供たち——孫の世代が、長男の家に遊びに行って「普通に楽しかった」と言い始めた。親が止めても聞かない。もう、親の喧嘩の文脈が伝わらない。


韓国で起きていること:「歴史」と「現在」を切り離す

東アジア研究院(EAI)の2025年調査は、韓国人の対日認識について面白い分析をしている。

日本に「良い印象」を持つ韓国人は63.3%。「悪い印象」は30.6%。好感理由のトップは「親切で誠実な国民性」が46.6%。一方、悪印象を持つ人の82.8%は「韓国侵奪の歴史に対する反省不足」を挙げている。

報告書はこう指摘する。「良い印象は現時点の日本の特徴、悪い印象は主に歴史問題に基づくものであり、歴史に対する認識と現在の日本に対する認識が分化している」

この一文を読んで、僕は長いこと考え込んだ。

分化している。歴史と現在を、切り離している。

これは「歴史を忘れた」のではない。「過去の日本がひどいことをした」という認識と「いま目の前にいる日本人は悪い人じゃない」という判断を、別の引き出しにしまって使っている。20代の77%という数字は、「歴史を知らない」ことを意味しない。「歴史を知った上で、現在の人間を現在の人間として見る」ことができる、という意味だ。

世代別に見ると、この傾向はさらに明確になる。在日本新聞協会の調査では、10〜30代の若年層が比較的高い好感度を示し、50代が45.6%で最低だった。直接の植民地経験を持つ世代、あるいはその直接の記憶を受け継いだ世代の好感度が低く、ポスト記憶世代の好感度が高い。

朝鮮日報・ソウル大学の共同調査(2026年1月)は、もう一つの数字を投げかけている。韓国人の「中国に友好的」という回答率は12.9%。10年前の約半分だ。

韓国人の対日好感度が倍増する一方で、対中好感度が半減している。

💡 家族で言うと

次男の家では、「長男のことはもういいや」という空気になりつつある。でも同時に、「三男(中国)のことがなんか怖い」という声も大きくなっている。家族の力関係が、孫の世代で完全に組み替わっている。


中国で起きていること:消費が「愛国」になる日

韓国の若者が対日感情を緩めているちょうどその時期、中国の若者のあいだでは逆の現象が進んでいる。

2024年1月、中国で「愛国主義教育法」が施行された。学校教育だけでなく、全社会を対象に「愛国」を法的義務にした。国慶節の「紅色観光」(革命聖地巡り)の支出は2024年、前年比約40%増。井崗山や延安に全国から若者が押し寄せる。

2025年、Chan Sze WanがPacific Review誌に発表した論文は、この現象のメカニズムを解き明かしている。中国の国家メディアが特定の多国籍企業を非難すると、消費者が政治的ボイコットを展開し、共同で「怒りの螺旋」を生み出す。企業は中国の要求に従うか、市場から撤退するかを選ばされる。

ランコム、キャセイパシフィック、H&M、NBA——4つの事例が分析されている。いずれも、中国市場でのビジネスを続けるために国家的な要求に屈したか、あるいは激しい抵抗の末に撤退した。

重要なのは、これが「上からの命令」で終わっていない点だ。Z世代の消費者が自発的にボイコットに参加し、SNSで拡散し、同調圧力を作り出している。愛国主義教育が「消費行動」として日常化している。「愛国」という言葉が、買うもの・買わないものを選ぶ基準になっている。

韓国の若者が「歴史問題」と「現在の日本人」を切り離しているのと対照的に、中国の若者は「歴史問題」と「現在の消費行動」を直結させている。


兄と弟の距離感が違ってきている

三兄弟の関係を、いま一度整理したい。

長男(日本):戦争体験世代がほぼ消滅し、「戦後80年」を節目に戦争記憶が「教科書の話」になりつつある。歴史問題への感情的反応は薄く、平和主義的な態度と「なぜ隣人が怒り続けるのか」を実感しにくい無関心が混在している。

次男(韓国):対日好感度が史上最高を更新中。ポスト記憶世代が「歴史問題」と「現在の日本」を切り離し始めている。ただし、これは「和解」というより「分化」に近い。過去を否定したわけではなく、過去を過去として整理し、現在を現在として受け入れ始めた。

三男(中国):国家主導の愛国主義教育が継承記憶を人工的に維持・強化している。消費行動が政治行動と直結し、「怒りの螺旋」が日常化。直接体験のない歴史に対する感情的エネルギーが、韓国とは逆方向に蓄積している。

同じ家で育った兄弟が、まったく違う方向を向き始めている。長男は昔のことを忘れかけ、次男は「あのことは嫌いだけど、今の長男は嫌いじゃない」と言い始め、三男は「絶対に許さない」と消費行動で訴え続けている。


「分化」は和解なのか

ここで、一つの問いに向き合いたい。

韓国の若者の間で起きている「歴史と現在の分化」は、和解と呼べるのか。

僕は、まだそう断言しない。

東亜研究院の報告書にもあった通り、悪印象を持つ人の82.8%が「歴史に対する反省不足」を挙げている。「いまの日本人は悪くない」と思うことと、「日本が過去のことをちゃんと反省していない」と思うことは、同時に成立している。

これは「許した」のではない。「過去の清算」と「現在の関係」を別のレイヤーに分けて、両方を維持しようとしている。整理がついたのではなく、引き出しを分けただけだ。

でも僕は、この「引き出しを分ける能力」こそが、次の段階への扉だと考えている。

「許す」という言葉は重すぎる。植民地支配36年、強制動員、慰安婦——それらを「許しました」と一言で済ませることは、誰にもできない。でも、「過去を忘れずに、現在の人間関係を築く」という選択は可能だ。そしてその選択を、韓国の若者たちが実践し始めている。

日本側に課された問いは明確だ。次男が「過去は過去、いまはいま」と言い始めたとき、長男はどう応えるのか。

過去を「引き出しにしまった」からといって、それを「なかったこと」にしてはいけない。引き出しは開けられるかもしれない。そのとき、中身が「過去の記録」なのか「忘れてはいけない傷」なのかは、長男の姿勢にかかっている。


中国という「逆ベクトル」が突きつけるもの

中国で愛国主義が消費と直結している現実は、韓国の「分化」と残酷なほどに対照的だ。

韓国のポスト記憶世代が「歴史を知った上で現在を現在として受け入れる」方向に動いているなら、中国のZ世代は「歴史を消費行動を通じて反復し続ける」方向に動いている。

両者の違いは、国家の介入に由来する。韓国政府は対日関係改善を外交方針に掲げ、文化交流を促進してきた。中国は愛国主義教育法で「記憶の継承」を法制化した。同じ「ポスト記憶世代」でも、国家が記憶をどう扱うかで、若者の感情の行き先が正反対になる。

ここに、ベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」論が再び响く。国民国家が「共通の歴史物語を信じる共同体」だとすれば、韓国はその物語を書き換えつつあり、中国は物語を法制化して強化している。

日本はどうか。日本は、自分の物語すら満足に語れていない。戦争の記憶が風化し、その空白を埋める新しい「共生物語」もまだ生まれていない。

💡 家族で言うと

三男は親から聞かされた「長男の悪事」を、買い物のたびに反復している。次男は「そういう話はもういい」と言って別の部屋に行った。長男は——何を考えているのか、自分でもよく分かっていない。


この先にあるもの

数字は告げている。韓国の若者のあいだで、対日感情は確実に動いている。これを「和解の完成」と呼ぶのは早すぎる。でも「和解の入り口」と呼ぶには、十分な変化だ。

問題は、入り口に立ったときに何をするかだ。

韓国の若者が「歴史と現在を切り離す」選択をしたなら、日本側に求められるのは「切り離された過去を、共有する記憶として扱う」姿勢だ。過去を消すのではなく、過去を「自分たちの家族の傷」として認識し、それを一緒に見つめ直す関係を築くこと。

【21】で僕は「東アジア平和の輪」というコミュニティを呼びかけた。あの記事への反響は、まだ目に見える形では届いていない。いいねゼロ、コメントゼロ、シェアゼロ。でも、続ける。

理由は単純だ。韓国の20代の77%が変わろうとしているのに、日本側が変わらなければ、その「変化」は行き場を失う。次男が手を差し伸べたときに、長男が気づかないでいる。それが一番まずい。

数字は動いている。家族の地形が変わっている。長男がその変化に気づき、応えるかどうか——それが、この連載の次の問いになる。


この記事を読んだあとに

次回は、この「分化」のメカニズムをさらに深掘りする。K-POPとJ-POPの相互浸透、アニメを通じた文化的接近、そしてオフラインでの実際の交流——「文化的相互消費」が、記憶の引力にどう抗っているのか。韓国の若者が日本に好感を持つ「理由」の46.6%が「親切で誠実な国民性」だった。その「国民性」のイメージがどこから来ているのかを追う。


シリーズ:家族としての東アジア史

  • 【1】〜【5】は下書きフォルダ参照
  • 【6】儒教は東アジアを「家族」にした——その功罪と、いま取り戻すべきもの
  • 【7】〜【11】歴史三部作シリーズ
  • 【12】台湾——「いとこ」が自分の家を建てるとき
  • 【13】北朝鮮——「家族」から追い出された末っ子の孤独
  • 【14】アメリカという「新しい親戚」——東アジア家族が80年かけて答えを出せなかった問い
  • 【15】父と長男の終わらない喧嘩——2025-2026日中外交危機を家族で読み直す
  • 【16】親の喧嘩、子は知らない——東アジア「歴史認識」の世代間ギャップ
  • 【17】日中外交危機——二つの物語が衝突するとき
  • 【18】在日コリアン——「家族のなかの他人」
  • 【19】日韓国交正常化60年——「兄弟」から成熟した隣人へ
  • 【20】東アジア共通歴史博物館——家族の傷を展示することは可能か
  • 【21】東アジア平和の輪——「兄弟」という理念を、かたちにするとき
  • 【23】北朝鮮——「末っ子」が兄たちを出し抜く日