透明な鎧のバラッド 最終巻——自我の消失、そして世界の合一
防壁コンテスト決戦。銀の盾を手にしたディルは、自我の消失という境地に達する。そして新たな脅威が——
前巻までのあらすじ:ガルドの悪意により信頼は崩壊したかに見えた。しかしディルは揺るがず、決戦のコンテストへ。そして謎の影が——。
ついに「防壁コンテスト」の日。ガルドは漆黒の盾でディルを迎え撃つ。
「我が盾は、どんな攻撃も跳ね返す! レベル1の雑魚冒険者など、一撃で粉砕してくれるわ!」
「俺が相手だ!」ディルが舞台に上がった。その手には、あのボロボロの木盾。

ドォーン! ディルの木盾は一瞬で粉々に。しかしディルは血を吐きながらも立ち上がる。 「……まだだ。じいさんの誠実さが、お前みたいな偽物に負けるわけがないんだ……!」
「そこまでにしろ、不肖の弟子よ」
人混みをかき分けて現れたのは、白髪の巨躯――カサイだった。その手には、まばゆい銀色の盾。

「ディル、これを使え。ワシの誠実さのすべてを注ぎ込んだ盾だ」
ディルが銀の盾を構えた瞬間、会場の空気が変わった。ディルから、激しい闘気や我欲が完全に消えていた。ただ、静かに、そこに在るのだ。自我の消失。

ガギィィィィィン!! ガルドの最大魔法は銀の盾に触れた瞬間、そよ風のように霧散した。
会場は割れんばかりの拍手。カサイの工房からは、再び鉄槌の音が響き始めた。
広場のカフェで特製パスタを頬張りながら、ミルカはノートに記した。
誠実さの第一定理。それは、他者の閉ざされた心を開く唯一の鍵であり、いかなる悪意や時間という試練によっても、決して破られることのない宇宙の法則。
だが、その笑顔は長くは続かなかった。

「大変だ……! 北の大図書館が襲撃された! 襲撃者はカサイの『銀の盾』の設計図を要求し、これを置き土産に……」
第一定理、面白い。――だが、それで溶かせない氷もある。
ディルは拳を握った。「……新しいクエストか」
北の空には、不吉な黒い雲が立ち込め始めていた。
『透明な鎧のバラッド』全3巻・完 — 新章『凍てついた真理の図書館』に続く