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歴史・文化 ·

「旅心展」閉幕——江戸の旅人たちが教える、越境するまなざし

本日6月15日、松本市立博物館の特別展「旅心」が閉幕。東海道五拾三次から兼高かおるまで——旅するように歴史を巡る「東アジア歴史館」プロジェクトの視点から、この展示が遺したものを考える。

本日閉幕——松本「旅心展」が遺したもの

2026年6月15日。松本市立博物館の特別展「旅心——journey’s heart」が、48日間の会期を終える。

東アジア文化都市2026松本の関連事業として開かれたこの展示は、江戸時代の「東海道五拾三次」から戦後の「ディスカバー・ジャパン」まで、日本人の「旅するこころ」の変遷をたどるものだった。

旅が開く、もうひとつの窓

展示を特徴づけたのは、「旅人のまなざし」だ。

歌川広重が描いた東海道の雨——「庄野 白雨」に急ぐ旅人の笠。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が五感を研ぎ澄まして捉えた明治日本の姿。兼高かおるが戦後、海外渡航が希少だった時代に世界中を旅して発信し続けた「世界の旅」。

彼らに共通するのは、「内なる者」ではない視点だった。広重は旅する庶民の目線で街道を描き、八雲は「異人」として日本を見つめ、兼高は日本人として世界を紹介した。いずれも「境界」を越えた場所から、見慣れた風景を異化してみせる。

東アジア文化都市の「旅心」

松本は2026年、韓国・安東(アンドン)とともに「東アジア文化都市」を開催している。

本来は日本・中国・韓国の3カ国各1都市が選ばれる事業だ。しかし今年、中国・湖州の参加は見通しが立たないまま開幕した。松本の開幕式典(5月17日)に中国側関係者は不在だった。「越境」がテーマのはずの文化事業が、越境できない現実を抱えている。

臥雲市長は「つながりを続け、対話を待つ」と語った。この姿勢そのものが、ある種の「旅心」ではないか——目的地が見えなくても、歩みを止めないこと。

旅するように歴史を巡る

自プロジェクト「東アジア歴史館」は、「旅するように歴史を巡る」をコンセプトにしている。一国史に閉じない、複数のまなざしで東アジアの近現代を読み解く試みだ。

2025年9月、日中韓3カ国約40名の歴史学者・教員・市民が20年がかりで編んだ共通歴史教材『新・未来をひらく歴史』もまた、「民衆の視点」——国家の歴史ではなく、市井の人々、特に女性や子どもが歴史をどう体験したか——を基軸に据えている。これもまた、見慣れた「国史」を異化する「旅人のまなざし」にほかならない。

「旅心展」の次に来るもの

展示は閉幕するが、松本の夏はこれからだ。

7月には「りんご音楽祭2026」、7〜10月には「おいしいねっアジア」、8月には「まつもと人形劇フェスタ」と、東アジア文化都市の関連イベントが続く。そして7月には、本来なら中国・湖州の開幕が予定されていた。

「旅心展」が遺した最大の問いは、おそらくこれだ——江戸の旅人も、明治の異邦人も、戦後の女性ジャーナリストも持ちえた「越境のまなざし」を、2026年の私たちは持てているか。

旅は終わらない。次の旅人のために、地図を広げておくことが、いまできることだ。