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東アジア文化都市 ·

安東からの手紙——東アジアで唯一動いている三国交流の現場

東アジア文化都市2026で唯一動いている三国交流の現場——松本の中高生13名が韓国安東へ。本日締切の学生交流事業を、中国の空席と対比しながら描く。

東アジア文化都市2026。松本(日本)、安東(韓国)、蘇州・大理(中国)──4都市が一年をかけて文化交流を行う国家プロジェクトだ。

だが中国の2都市は、開幕式典に代表団を送らず、松本の年間プログラムにも中国関連の交流事業はひとつも載っていない。「日中韓」の看板を掲げながら、実態は「日韓」に縮減された文化交流。それが2026年の現実である。

そんななか、ひとつだけ動いている三国交流の現場がある。

7月31日、松本の中高生が安東へ

東アジア文化都市2026松本実行委員会は、韓国安東市との学生交流事業の参加者を募集している。渡航期間は7月31日から8月3日までの3泊4日。対象は松本市内在住・在学の中学生と高校生。定員13名、費用は全額主催者負担だ。

この事業の発端は3月下旬、安東青年会議所(JC)が松本を訪問した際の提案だった。松本JCの小岩井昌門理事長は「JCだけの交流ではなく、より市民レベルでの交流を継続するきっかけにしたい」と語る。信州大学人文学部の濱崎友絵教授は「次代を担う若者が、松本と安東でともに学び合う関係を築きたい」と本事業の意義を説明した。

募集締切は6月15日──本日である。

「対話を待つ」の答えは、若者だった

松本市の臥雲義尚市長は信濃毎日新聞の取材に「つながりを続け、対話を待つ」と語った。中国が空席にしたテーブルを片付けず、扉を開けたままにしておく。その言葉は重い。

だが、本当の「対話」は待っているだけでは始まらない。

松本の中高生13名が安東で過ごす3泊4日。現地学生とのワークショップ、日本の文化発信、団体宿泊。語学力は問わない。「韓国に友人をつくりたい意欲」と「チーム活動に積極的に取り組めること」が条件だ。8月7日から10日には安東からの訪問団を松本に迎え、市内で交流事業も行う。

これは、教科書でも大臣会合でもない、中学生と高校生による外交である。

中国の空席と、韓国の隣席

なぜ韓国は動き、中国は動かないのか。

答えの一端は政治にある。2025年11月の高市早苗首相による台湾有事をめぐる国会答弁。同年の東アジア文化都市2025閉幕式(鎌倉)で中国側2都市が揃って欠席したこと。そして2026年の松本・安東両開幕式典からの中国不在。第16回日中韓文化大臣会合の開催記録も公的には存在しない。

だがそれだけでは説明できないことがある。韓国もまた、日本とのあいだに歴史認識問題や領土問題を抱えている。それでも安東は来た。JCは提案した。学生交流は実現した。

この差は何か。

ひとつ言えるのは、地方政府と市民社会のレイヤーで動けるかどうかの差だ。中国の文化都市選定は中央集権的で、省政府の推薦から文化観光部の終審までトップダウンで決まる。大臣会合による「宣布」がなければ、蘇州も大理も動けない。対して韓国・安東は、JCや市レベルでの自律的な交流判断が可能だった。

共通歴史教材から、共通体験へ

2025年9月、日中韓の歴史学者・教師・市民が共同編集した歴史教材『新・未来をひらく歴史』が3カ国で同時刊行された。20年の歳月をかけた市民レベルの和解の結晶だ。

共通歴史教材が「読む」ことで対話を始める試みだとすれば、安東学生交流は「体験する」ことで対話を身体化する試みである。教室で学んだ「隣国」を、ホームステイ先の食卓で、ワークショップの笑い声で、街角の風景で、自分のものにする。

教科書が「知る」ことから始めるなら、交流は「感じる」ことから始める。どちらも、政府が空席にしたテーブルを市民が埋める行為にほかならない。

13人の小さな外交

参加者は13名。たった13人だ。東アジアの人口15億人のうちの13人。比率で言えば、砂浜の砂粒ひとつにすぎない。

しかし、あらゆる「和解」は一人から始まる。共通歴史教材の初版(2005年)に関わったのはわずか数十人の教師と市民だった。それが20年後、3カ国同時刊行にまで育った。安東の学生交流もまた、最初の13人が次の130人に、1300人に育つかもしれない。

松本JCの小岩井理事長は「継続も視野に入れている」と明言する。一回限りのイベントではなく、制度として根づかせる意思が、すでにある。

臥雲市長の「対話を待つ」は、決して受け身ではない。待つとは、テーブルを整え、席を空け、相手が来たときにすぐ始められる準備をしておくことだ。13人の中高生は、そのテーブルに最初に座る人たちである。

募集は本日締切。応募シートは東アジア文化都市2026松本の公式サイトからダウンロードできる。面接は6月20日・21日、結果通知は6月28日。パスポート取得には10営業日程度かかるため、参加希望者は今日中に行動する必要がある。

中国の空席はまだ埋まらない。でも、韓国の隣席にはすでに13の椅子が並び始めている。


参考:東アジア文化都市2026松本 公式サイト、市民タイムス(2026年4月)、信濃毎日新聞(2026年5月15日)